2005年04月15日

アーカイBS「アンダーグラウンド」

アンダーグラウンド.jpg

前回の「民族受難、面白うて、やがて哀しき・・・」つながりで。
僕が90年代以降で好きな監督を3人だけ選べと言われれば必ず挙げるエミール・クストリッツァの作品でカンヌではグランプリも獲得しました。
今はなきユーゴスラビアを舞台にした、かなり可笑しな物語。
そして、「人間」と「社会」をごまかしなく描いた、とてつもないパワーを感じさせる大傑作。

ストーリーは

41年、ユーゴ王国はナチス・ドイツに侵略された。クロを誘ってパルチザンに参加したマルコは、自分の祖父の地下室に弟やクロの妻などをかくまう。やがて重傷を負ったクロも地下室に運び込まれる。
45年、終戦。共産主義のユーゴスラヴィア連邦が成立。さらに61年、マルコは政権の重鎮になっていた。クロはマルコによってパルチザンの英雄として死んだことにされていた。マルコは地下の人々を騙し、未だ独軍の占領下だと思わせて、武器を製造させ、外貨稼ぎのため外国に密売していた・・・。


こんな感じ。

第1部から3部まであってそれはユーゴの戦乱史と重なっていてまさに一大大河ドラマなわけですよ。
ユーゴスラビアって激動のイメージがあるでしょ?
でも、映画はその歴史を堅苦しく追っていくというものではなく、あくまでも騒々しく、良く言えばユーモアに満ちた、悪く言えばホントにバカな雰囲気を醸しつつ進みます。
出てくる人たちみんなヘン。
ついでに設定もヘン。
何十年も地下室から出られないことに気付かないなんて!

って最初は思うのですよ。

ただ、はまって見ていると、まぁ、ところどころファンタジーな感じだし、「ああ、ありだな」とか思えてきます。

けどね、

物語も中盤以降に差し掛かると

ん?ファンタジーか、これ?

いや、やっぱり現実なんだ。

って妙に強烈な悲壮感が襲ってくるのです。俄然。

ドイツの侵攻から身を守るために地下室に身を隠す人々。
しかし、戦争の巻き添えを食った人たちは地下室そのものの生活を強いられるのではなかろーか。
戦乱に身を置くどうすることもできない一般市民はアンダーグラウンド。
戦争を起こす(でも自分自身は戦わない)人たち以外がアンダーグラウンド。
もっと大きなカテゴリで見るなら(ごく少数の)力を持った人たちに対して力を持たない(大勢の)人たちはアンダーグラウンドなんだ。(グラウンドゼロか?)
ユーゴ史を描いてるけど現代社会そのものを風刺してるんですか?

ただ、クストリツァは弱者を正当化、聖人化することなく描いてる。
クロやマルコは悪知恵が働き、ずるく、利己的。(ついでに助平)<ある意味人間臭い
まるで「人間ってこんなもんでしょ」とでもいいたげな人物描写。
ここに実際のユーゴスラビアを生きたクストリッツァの人生観というか人間観が滲み出てると思う。

僕達、極東の(表向きは)豊かな国で暮らす人間には「理性」や「利他の精神」を持つことが美徳とされるわけだけど例えば戦火の元、極限状態、もしくは極貧で果たして心に余裕が生まれるだろうか?
僕は自信ありません。
ちょっと体が疲れるだけで人に対して笑顔さえ向ける気にならない弱い人間ではあるし。
恐らく、ユーゴスラビアという国は侵略、内戦の歴史を繰り返したため、人々は疲弊しきっていたのでは。
そこで人間らしくあるには自分らしく(=利己的)あればいい。
だからクロやマルコといった人間を主役に置いているのでしょう。
そこに善悪の色分けはありませんでした。

しかし、この悲劇的内容をひたすらコミカルに描いた、この点がクストリッツァの偉大さであり、シンパシーを抱けるところであり、映画自体が強烈に印象に残るものになる大きな要因であると断言したいっすね。
「俺達はこんなにつらかったんだよ」
じゃなくて、
「へへーん、笑ってしまえぃ」
ってね。

開き直りの強さですよ。
吹っ切れた後の危うい陽気さですよ。
もちろん強烈な経験を経た後に自然と出るものでしょうが。

前回、「ユダヤ人は耐え忍んで強さ、知恵を手にした」って書いたけど、彼らロマは漂流しながらとにかく「明るさ」で急場を凌いでいったのかな。それもまた、強さの象徴だと思うけど。

あと、ダイアローグにも彼のセンスは十分発揮されており、

「赦してくれ・・・」

「赦すけど、絶対に忘れない」

という仲間の裏切りに対する積年の思いを綴ったセリフとか。

ラストの「この物語に終わりはない」という文字だったりとか。

とにかく強烈。
遠い国の話じゃないよ、これ・・・。
コミカルだけど辛辣なんだ。
ラストシーンとか特に絶望と希望が一体となった、かなりの力技。

富と権力と戦争にむなしさを覚える人は一度見てみることを激烈にオススメします。

劇中音楽はロマ(ジプシー)の音楽でとにかくノリがいいし、この映画にはピッタリ。
繰り返される主題歌(?)は耳を離れない。

ちなみに
カンヌでグランプリを取ったとはいえ、ユーゴ史をちゃかしやがって的な批判もかなり浴びて、それにクストリッツァはキレて(←僕の想像)「もう、映画なんて作らないやい!」と発言。
しかし、それから3年後、見事「黒猫・白猫」(1998)というこれまた大傑作を引っさげて復活を遂げました。

これだけの2本を撮った後のプレッシャーってどうなんだろう?
次の作品楽しみなんだけど・・・


UNDERGROUND  (1995)
上映時間 171 分

監督: エミール・クストリッツァ 
出演: ミキ・マノイロヴィッチ、ミリャナ・ヤコヴィッチ、ラザル・リストフスキー、スラヴコ・スティマツ







posted by はやし at 15:47| 熊本 | Comment(0) | TrackBack(1) | 映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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